劇場版のんのんびよりの贅沢な72分に隠された秘密

こんにちは、北近畿5号です。

早速ですが、皆さんは「劇場版 のんのんびより ばけーしょん」はご覧になりましたか?
一言で言って最高の映画でした。ただでさえ完璧な出来だったTVシリーズを超える満足感と幸福感にあふれた素晴らしい作品です。
キャストのコミカルな演技、のんのんびよりらしいシュールなギャグはもちろん、OADで描かれた沖縄に行く前の物語からきちんとつながったストーリー運びも見事でした。
TVシリーズの良さをそのままに、さらに見どころを増やして帰ってきてくれたことにただただ感謝しかありません。

さて、今回ののんのんびよりの映画は72分でしたが、皆さんはどのように感じたでしょうか?
もしあなたはこの映画をつまらなく感じたのならひたすら長い72分だったかもしれませんが、多くの方はあっという間の72分だと感じたと思います。
その72分というのも、ハラハラ・ドキドキで駆け抜けるというよりは、リラックス、リラックス、時々クスクス笑いといった感じの癒やしに溢れた72分だったはずです。
そういう意味では、劇場版のんのんびよりが私達に与えてくれた72分というのは、あなたにとって大変貴重な時間だったのではないでしょうか?

では、劇場版のんのんびよりはどのようにして私達に72分もの贅沢な時間を与えてくれたのでしょうか?
また、沖縄旅行にあたったヒロインたちが2泊3日の沖縄旅行に出かけるというシンプルな物語なのにも関わらず、72分もの間ファンを飽きさせなかった理由はどこにあるのでしょうか?

その理由の1つに、川面真也監督の「間」の使い方があると考えます。

のんのんびよりと他作品の「間」の使い方

まず下の表を見て下さい。この表はのんのんびより第1期第1話の24分42秒(本編とOP・ED・次回予告含む)のうち無音時間がどれくらいの割合を占めるか調べたものです。

ここで無音時間、すなわち「間」を次のように定義します。

  • 人物の会話が入らない(ただしBGMのみのシーンは無音時間に含む)
  • 独立したカットである
  • カットに人物が映っているか背景が映っているかは区別しない

先程の評価から、「間」は全体のうち29.9%を占めることが分かりました。
つまり、のんのんびより第1期第1話では全体の3割が会話のない無音、もしくはBGMだけのシーンになっているということになります。

この結果がどれほどすごいことかを示すために、「ラブライブ!」と「ご注文はうさぎですか?」の第1期第1話の結果と比較してみます。
上がラブライブ!、下がごちうさです。

μ’sの学園生活をハイテンポで描いたラブライブは、会話偏重な傾向が見られ、「間」は5%未満にとどまりました。
のんのんびよりと同じ日常系アニメに分類されることが多いごちうさでも、「間」は15%程度です。

これらと比較すると、のんのんびよりでは「間」がどれだけ贅沢に使われているかがお分かりいただけると思います。

劇場版のんのんびよりの贅沢な「間」の使い方

さて、話を劇場版に戻します。劇場版のんのんびよりでも、こうした「間」が多用されていました。
私が気づいた「間」の使い方を羅列すると、

  • 冒頭では見慣れた田舎の風景を「間」を使ってじっくり見せ、ファンの前にれんげ達が帰ってきたことを実感させてくれました。
  • 沖縄に着いてからも、島の美しい情景を切り出したカットが続き、沖縄旅行の高揚感を盛り上げていました。
  • 会話が続くシーンの前後には必ず「間」が置かれ、時間や場所の変化を伝えると共に、見ている人が一息つける工夫がされていました。
  • 最終日に島を離れる直前のシーンでは、あおいとともに遊びに行った島の数々の場所が「間」とともに振り返られ、夏海のセンチメンタルな感情を間接的に描いていました。
  • 加えて、劇場版用に撮り下ろされた南国風のBGMが「間」を鮮やかに彩り、いつもののんのんびよりにはない特別感を感じさせてくれました。

のんのんびよりはギャグ漫画ですが、同時に非常に「間」を大事にした作品だと考えています。
例えば、第1期第1話でれんげがたぬきの「具」に口笛を吹いて芸をさせようとするも、何秒経っても具が反応しないというシーンでは、意図的に「間」をとることで具の反応にユーモアを見出しています。
今回の劇場版でも「間」そのものをユーモアに昇華させたシーンがあちこちに見られ、ヒロイン達のコミカルな会話シーンとはまた対照的な笑いを演出していたように思います。

劇場版のんのんびよりが私達に満足感と幸福感を与えてくれた理由は、これらの印象的な「間」にあると言えるでしょう。

「間」を大事にした作品がもっと見てみたい

私はのんのんびよりのような「間」を意識して作られた作品が大好きです。
最近だと「月がきれい」「このはな綺譚」「ゆるキャン」が「間」を見事に使いこなした素晴らしい作品だと思います。
実際どの作品も人気が出ましたし、ファンからも演出に長けた作品として認められています。

しかし作り手側からすると、アニメーションで「間」を完璧に使いこなすのは難しいようです。
「機動戦士ガンダムシリーズ」や「伝説巨神イデオン」などの作品で知られる富野監督の著書[1]では、「大きい段取りが説明されて、ともかくドラマの流れは分かりながらも、アニメに欠けているものに、芝居の” 間” があります。これはぼくもよくは演出できません(p.303)」とあり、アニメ界の大御所でも「間」の演出に苦労が見られます。
実際、言葉で説明すれば簡単に済むものを、無音の映像とBGMだけで表現するのは一朝一夕ではできないようです。
なぜなら「間」をコントロールするためには、視聴者がその映像をどのように受け止めるかを事前にシミュレーションしなければならないからです。
違和感のある「間」の使い方は、視聴者にテンポが悪い作品だと感じさせたり、演出の意図が通じなかったりする恐れがあります。
しかし、この難しい壁を乗り越えて「間」を使いこなせば、視聴者の心を動かす名作が生まれる可能性があるのです。

個人的に最近のアニメは情報過多気味だと思います。
情報過多になった作品はどうするかというと、決められた尺に収めるためにあらゆる登場人物の設定や物語のあらすじを言葉で説明しようとします。
それゆえ、会話偏重となり情報がパンクして視聴者の理解が追いつかず、最後は残念な評価に終わってしまう作品も見られます。
この状況を打開するために、前述の「間」を少なくとも全体の1割、可能なら2~3割取り入れることが、アニメーションの表現をより豊かにする最適解なのではないかと考えています[2]。

今期も多数のアニメーションが放送されていますが、のんのんびよりのように「間」で魅せてくれる作品と出会えることを楽しみにしています。

参考文献

[1] 富野由悠季 , ” 映像の原則 改訂版 ビギナーからプロまでのコンテ主義“, キネマ旬報ムック, 改訂版初版第3 刷
[2] 北近畿5号, ” 間 のんのんびよりから学ぶアニメの「間」の理論“, おふとんぱらだいす。, 2016

[2]はおふとんぱらだいす。が直接参加するイベントで頒布しているほか、COMIC ZINで委託頒布もしています。今回取り上げた以外のデータもありますので、興味を持った方はぜひお手にとって見て下さい。

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