「セカイがカフェになっちゃった!」の魅力:楽曲分析から分かるごちうさ楽曲のエッセンス 構成編

こんにちは、北近畿5号です。

いよいよごちうさOVAのBD/DVDが発売されましたね。
劇場で見てからしばらく時間が経った今見返しても、脚本、キャストの演技、演出、劇伴など、全てが素晴らしい完成度に感じられます。

さて、OVAの終盤では、チノとココアの再会シーンの直後、花火を背景に「セカイがカフェになっちゃった!」のフルサイズが流れる粋な演出が見られました。
OVAを見始める前は、てっきりこの曲はOPに流れるものだと思っていたため、EDの感動シーン直後に使用されたことは、驚きとともにとても印象に残るものでした※1。
劇場公開中何度もOVAを見ましたが、今でもEDシーンを見ると鳥肌が立ちます。

そんなOVAを素敵に盛り上げた「セカイがカフェになっちゃった」ですが、OVAのBD/DVD発売を期に、今一度楽曲そのものについて楽曲理論から分析してみたいと思います。
そうすると、「セカイがカフェになっちゃった」に秘められたごちうさのメッセージが見えてくるのではないでしょうか。

よく楽曲は歌詞、メロディー、コード進行の3要素で構成されていると言われます。実際その3つで楽曲の多くを語ることができるのですが、さらに深い考察をするため、参考文献に挙げたビートルズの楽曲考察本に倣い、構成・メロディ・コード進行・アレンジ・歌詞の5つの観点から「セカイがカフェになっちゃった!」がごちうさ楽曲の集大成である理由を導き出したいと思います。

構成 ~2重3重の構成トリックが楽曲をより感傷的に盛り上げる~

最初に分析するのは「セカイがカフェになっちゃった!」の構成です。

本曲の構成は以下の通りです。全167小節、演奏時間約4分15秒です。

特徴を列記すると、

  1.  基本的にはポピュラーソングで一般的なヴァース・コーラス(メロ・サビ)形式(青部分)だが、イントロ直後にサビとCメロが入る(最初の赤部分)のが変則的
  2. 最後の大サビ(2番目の赤部分)は、1番や2番のサビCho(16)よりも小節数が7多く、アレンジが加えられている
  3.  1番ではAメロは2回繰り返されるが、2番では1回のみでBメロに移る(A’メロスキップ)

となります。ここからはこの3つのトリックに着目していきます。

変則的なサビとCメロ

サビは楽曲の中で最も聴かせどころとなる部分ですから、冒頭でサビから始まる楽曲は大変キャッチーな印象を残します。その上、冒頭でサビが登場した分、楽曲中でサビ繰り返される回数も増えるわけですから、聴いている人の耳に残りやすくなります。「Daydream cafe」や「ノーポイッ!」を思い出していただければすぐに分かっていただけるのではないでしょうか?

本曲の場合も、これら2曲のDNAを受け継ぎながら上記のような構成を取ったことで、「いまから楽しい楽しい~」のフレーズが強く引き立てられています。OVAではチノがココアと再会し、楽しい時間を過ごそうとするシーンの直後にこのフレーズが流れてきたものですから、なおさら印象に残ったというファンも多いのではないでしょうか。

また、Cメロにあたる「…とまどっちゃうっ~」(アウトロでは「…いらっしゃいなっ~」)のフレーズが、イントロとアウトロで2回登場しているのも注目です。サビが冒頭にある楽曲はちらほらありますが、Cメロが冒頭と最後で2回繰り返されるパターンは、私が知る限り非常に稀です。ごちうさだと、「Daydream cafe」が同じ形式をとっていて、やはり印象的です。

実は見方を変えると、こうした構成は1番~2番がサビとCメロのセットにサンドイッチされたような三部形式(呈示部-対照部-再現部)のようにも捉えることができます。三部形式はきらきら星を思い浮かべてもらうとよいのですが、最初と最後に同じフレーズが反復されて完結するため、繰り返しの説得力あるいは起承転結の印象を高めることができるという特徴があります。実際、1番と2番を終えて大サビ・Cメロに差しかかった時に、最初のフレーズに戻ってきたかのような帰結感を感じないでしょうか?

まとめると、本曲ではヴァース・コーラス形式と三部形式が混在し、サビとCメロの存在によって2重に引き立てられた構成になっていると考えられます。この構成は複合三部形式と呼ばれ、あらゆる楽曲構成の中でも非常に優れていると評価されるものの1つです。実際、多くのクラシック楽曲もこの形式を採用しています。それゆえ本曲でもサビとCメロが頭に残りやすく、聞き終えた時に元に戻ってきたような安心感と贅沢感が得られるのです。

大サビのアレンジ

最後に流れる大サビにアレンジが加えられるのはそれほど珍しいことではありませんが、本曲の場合はとても効果的なアレンジが見られます。

大サビ終盤のフレーズ「きゅんってね~」は、冒頭サビ終盤のフレーズの繰り返しです。大サビまでにサビが3回流れているので、聴いている人はこのフレーズを聞いた瞬間、今までと同じようにサビが終わると予想します。しかし、すかさず「カップ置いて」と掛け合いが入ってサビが続き、予想を裏切られます。

続いて2番サビのフレーズ「ぎゅってね~」が繰り返されますが、この後もサビは終わらず、まるでサビが終わるのを惜しむかのように新しいフレーズ「あったかい~」が挿入され、ようやく「のんじゃう~?」でサビが終止します。

このように、大サビを終わらせるかのように見せかけて2回延長を繰り返すことで、最後の大きな盛り上がりを演出しています。そして大きく盛り上がった後には、大サビの後の余韻が聴いている人の心に残り、明るいけれども少しさみしい気持ちになるのです。

ちなみに、大サビの延長は「ノーポイッ!」でも見られます。「一歩、二歩~」と1番サビのフレーズを繰り返したところで、再び「一羽、二羽~」と2番サビのフレーズを繰り返して終止していて、前述の解釈だと1回の延長が行われていることになります。

2番のA’メロスキップ

2番でA’メロがスキップされる手法は、ポピュラーソングで見られる一般的なものです。この効果として、
・1番に比べ怠惰になりがちな2番を早めに切り上げてサビに進むことで、サビへの盛り上がりの期待感・スピード感を高める。
・1番と同じ構成になると予想して聞いている人をいい意味で裏切り、アクセントを付ける
が挙げられます。本曲の場合はどちらの効果も良いように作用して、聞いている人を飽きさせない工夫になっています。

メロディの考察でも触れたいと思いますが、本曲は冒頭サビから2番サビまで、流れるようにフレーズがつながっているのが特徴です。間奏による休止は2小節ずつしかなく、2番サビの後でようやく16小節の大きな休止、「カフェでブレイクタイム」となります。2番のA’メロスキップには、1番から預かった流れを2番でも受け継ぎ、2番サビに向かって加速させるかのような働きが込められています。

構成のまとめ

以上のように、「セカイがカフェになっちゃった!」の構成には大きく分けて3つのトリックがあることを分析してきました。

これらに共通するのが、楽曲をより感傷的に盛り上げる役割を担っていること、そして、これまでのごちうさ楽曲のDNAを受け継いでいることです。

構成を分析するだけでも、「セカイがカフェになっちゃった!」には、ごちうさ楽曲の集大成とも言うべき様々なトリックが隠されていることに気づいてきたのではないでしょうか。

次回はメロディについて考察を進めてみたいと思います。

 

注釈

※1:当初「セカイがカフェになっちゃった!」はOPに使用されるというオーダーだったそうですが、プロデューサーの服部Pからの提案で、EDにフルサイズで流されるよう変更になったという裏話がOVAのBD/DVDブックレットで語られています。この試みは成功し、音楽プロデューサーの藤平PもOVAの印象的なシーンに、花火シーンからのEDのつなぎを挙げています。

※2:藤平PはOVAのBD/DVDブックレットで、本曲はAメロや2番のサビが終わった後までメロディが詰まっていることを意識していると発言しています。

参考文献

・「ビートルズの作曲法 名曲に隠されたメロディコード/アレンジの秘密を解明する」 高山博著 リットーミュージック
ビートルズの楽曲を題材に、楽曲の魅力を構成・メロディ・コード進行・アレンジの4つの観点から徹底的に分析した考察書。楽曲の解釈は人によって様々ですが、本書では楽曲の美しさやファンを虜にする理由を音楽理論に基づいて理論的に導き出しています。興味のある方はぜひ読んでみて下さい。

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