「セカイがカフェになっちゃった!」の魅力:楽曲分析から分かるごちうさ楽曲のエッセンス コード進行編

こんにちは、北近畿5号です。

前々回前回から引き続き、「セカイがカフェになっちゃった!」の楽曲考察を続けていきたいと思います。

今回は楽曲の音の響きを決めるコード進行について分析していきます。

コード進行 ~王道の中に見え隠れするごちうさらしい可愛らしさ~

Bメロ、Cメロ、サビに王道進行(IV7→V7→IIIm7→VIm)の派生系が見られます。これは言わずとしれたポピュラーソングの定番的コード進行で、近年のアニソンでも多用されています(ごちうさだとノーポイッ!のBメロとサビで使われています)。王道進行には日本人の琴線に触れる感情の揺さぶりが表現されているとされ、サブドミナントセブンス→ドミナントセブンスへの2度上行で緊張を高めた後、サードマイナーセブンスへの憂いを含んだ3度下行、そしてその憂いを解決するVIへの4度上行で構成されています。本曲が王道進行を活用したことにより、明るさの中に感情を揺さぶるサウンドが取り入れられ、今回のOVAのテーマに合致した感傷的な響きに仕上がっていると言えます。

王道進行以外のコード進行に注目すると、コードのルート音が半音・全音ずつ上下する順次進行と、IIm→Vに代表されるトゥーファイブが多用されています。前者はド→レ→ミのように隣り合う音が順番に聞こえてくるため、聴いている人に安心感を与えます。一方後者は、サブドミナント→ドミナントと移り変わる緊張感を高める進行で、非常に対照的です。本曲ではこれらの安心感と緊張を感じさせる進行が交互に繰り返され、聴いている人の気持ちを揺さぶっています。

Aメロやアウトロではトニック(I、IM7)が使われており、所々でドミナント終止もあることから、フレーズを完結させる作用が働いています、一方B・Cメロやサビではトニックはほとんど使われず、サブドミナントによる終止感の弱い進行が続きます。これによって、本曲は聴いている人に切れ目を感じさせない、流れるような曲調に仕上がっています。

Bメロと大サビ前の間奏では4小節間G majorへの短三度転調が見られるほか、1番サビ直後も2小節のみG majorのコードの響きになっており、メロディーと共に曲調を変えるアクセントになっています。ささやかな気持ちの高ぶりを表すポイントだと思います。

Aメロ・A’メロ

最初の4小節で順次上行した後(1)、トゥーファイブを経て(2)、ドミナント終止する(3)、基本に則った安定感のある進行です。

Aメロの最後の2小節では、II#→II→I#と半音ずつ下がって(4)次のA’メロ冒頭のIにつながります。

総じてAメロの始まりに相応しく、かつごちうさらしい大人しめの出だしであり、聴いている人を安心させる効果があると思います。

Bメロ

最初の4小節は王道進行ですが、ルート音はIV→IIIから5小節目のIIまで順次下行しており、サビ前で盛り上がりすぎない少し控えめな進行です(1)。

次の4小節ではII→III→IVとルート音が順次上行していき(2)、聴いている人の気分を高めていきます。そして7小節目でピボットコードを用いた短三度転調の準備が行われます。ここは転調先のG majorにおけるトゥーファイブになっており、非常に自然な進行です(3)。

転調後の4小節は、元のE majorよりも明るい響きになって1つの山場を迎えます。ここではトニックとサブドミナントの間を交互に行き来するアーメン終止とその逆進行が見られます(4)。このささやかな緊張感の連続が、来たるサビへの気分をさらに高揚させてくれます。

サビ前の4小節は、トゥーファイブの中に上行音階進行が挟まっており(5)、(2)の順次上行と同じくサビへの盛り上がりを高めていきます。

サビ

王道進行(1)とトゥーファイブ(2)が連続する、本曲で最もダイナミックなコード進行が見られるパートです。王道進行の4番目のコードにVImよりも明るい響きをもつVI7が選ばれたことで、IIIm7とともにトゥーファイブを形成し、Bメロよりも華やかに聞こえています。

サビ最後の4小節はBメロと同様、トゥーファイブの中に挟まった上行音階進行が見られます(3)

サビ最後はⅤ→Iにドミナント終止すると見せかけて、実際はⅤ→Ⅳm7(1番サビ後)/IIm7(2番サビ後)/IVM7(大サビ後)のようにいずれもサブドミナントへ偽終止しています(4)(5)。この進行は、聴いている人にサビのフレーズが一旦途切れると思わせておきながら、実際にはサビの流れを受け継いだまま次のフレーズに繋がるという予想外の動きをもたらします。すなわち、聴いている人の期待をいい意味で裏切る、非常に特徴的な進行だと言えるでしょう。私が本曲を初めて聞いた時に鳥肌が立ったポイントはここにあって、あたかもごちうさのキャラクターたちの楽しい時間が永遠に続くことを暗示しているかのような、とても前向きなメッセージが伝わってくる部分だと思います。

各サビ後のコードが少しずつ異なっているのも興味深いです。1番サビ後のIVm7はG majorで言うところのVI6に相当し、この2小節のみG majorに部分転調しているようにも聞こえます(4)。

一方、2番のサビ最後ではⅡm7に逆進行し、1番のサビ終わりと比べ明らかに異なる響きになっているのがおしゃれです(5)。やはりドミナント終止ほどの終止感はなく、浮ついた終わり方をしたまま間奏を迎えます。

そして最後の大サビ終盤では(3)の4小節が繰り返された後、Vのクリシェでサビの終止が延長されます(6)。ここの延長はまるでごちうさのキャラクターたちが本曲が終わるのを名残惜しんでいるかのようです。その後の偽終止(7)でまだまだ曲が続くことを暗示し、間奏を挟んでCメロへと繋がります。

Cメロ

冒頭4小節は王道進行ですが、Bメロやサビと明らかに異なるのは4番目・5番目の響きでしょう(1)。VIsus4→VIの解決は聴いている人に安心感を与えつつアクセントになるおしゃれなコード進行です(2)。王道進行のIIIm7の響きと相まって、サビの王道進行なみに感傷的なフレーズになっていると言えます。

そこからIV→IIIと順次下行し次のフレーズに繋がっていきます。

コード進行のまとめ

以上、「セカイがカフェになっちゃった!」のコード進行についてまとめてきました。

  1. 安心感を感じさせる順次進行と、感傷的な王道進行、さらに緊張感を高めるトゥーファイブが組み合わされることで、聴いている人の心を揺さぶっている。
  2. トニックを多用せず、サビを偽終止で終わらせることで、サビ終わりに切れ目を感じさせず、本曲がどこまでも続いていくかのような錯覚をもたらしている。
  3. Bメロ・間奏の部分転調が曲調を明るく変化させ、サビへ向けての盛り上がりを加速させている。
  4. 所々に見られるごちうさらしいおしゃれなコードがアクセントになっている

1つ1つは王道的でありふれた要素かもしれませんが、これらを絶妙にミックスすることで生まれた奇跡が本曲と言えるでしょう。

それらをつなげてみると、この曲はココア達が終わらない日常や楽しい時間を願った曲のようにも聞こえてくる気がします。

 

次回はアレンジに注目して分析を進めていきたいと思います。

最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

参考 本曲のコード進行(全パート)

コードの聞き取りにはwavetone(http://ackiesound.ifdef.jp/download.html#wt)を使用しました

Leave a reply

You may use these HTML tags and attributes: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <s> <strike> <strong>

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください