ごちうさ第7巻のコミックス修正から見えるこの先の展開

11/10 14時 加筆修正して再公開しました

こんにちは、北近畿5号です。

先日待ちに待ったごちうさの第7巻が発売されました。
第6巻の発売が2017年11月9日でしたから、ちょうど1年のインターバルで刊行されたことになります。

第7巻に収録されている話数はきららMAX2017年9月号~2018年9月号が初出です。最後の2018年9月号は2018年7月19日発売ですので、単行本発売の11月まで4ヶ月間があったことになります。
単行本発売までの時期をずらしたのは、連載と並行して単行本作業を進めるKoi先生のスケジュールを調整する目的のほかに、新作OVA・TVアニメ第3期制作決定ときららファンタジア参戦決定の告知を帯に入れる目論見もあったと考えられます。

次の第8巻が発売されるタイミングですが、2019年中に制作が決定している新作OVAに合わせてくるでしょう。
未単行本化エピソードのストックに少し余裕があることを鑑みると、2019年の初秋頃に発売されていそうな気がします。

さて本題です。ごちうさ第7巻のコミックス修正をきららMAX連載時と比較していきます。

ここからはきららMAX連載最新号のネタバレを含みます

エピソード順の修正について

まずエピソードの並びですが、2017年12月号のガレット・デ・ロワのエピソードが巻頭カラーに移動し、それ以外は掲載順序通りの並びとなりました。

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巻頭カラーのみ掲載順序が異なるのは第6巻も同様でした
クリスマスに高校生組とチマメ隊がラビットハウスに勢揃いするという華やかなクライマックスが描かれた第6巻とは打って変わって、第7巻ではチマメ隊の受験と成長が主軸に描かれました。特に受験を乗り越えたチノの精神的な成長は目を見張る物があり、チノが自ら卒業旅行を提案するガレット・デ・ロワのエピソードが巻頭を飾り、最後は木組みの街から旅立つエピソードで締められたのは、まさに第7巻のテーマにふさわしい演出だと思います。Koi先生らしい憎い演出です。

以前に拙書で「ごちうさは誰視点の物語か」ということを考えたことがあります。ごちうさの初期のエピソードを読めば、初読者の多くはあらゆる事件のきっかけになっているココアを主人公だと思うでしょうし、現にきららMAXのあらすじでも

異国情緒ある喫茶店で住み込みながら学校に通うココアが、喫茶店や学校の仲間たちと、もふもふライフをレッツ・エンジョイ…!?

まんがタイムきららMAX2018年12月号 P.9

と紹介されており、ココアが中心の物語であることに疑いはありません。
ただし、ごちうさの物語は頻繁にココア以外の視点への移り変わりが行われていることに注意が必要です。第1巻第10話で千夜とシャロが図書館で2人きりになっているシーンに代表されるように、ココアが直接関与しないエピソードも一定数存在し、その割合は少しずつ拡大してきました(例えば第4巻第9話や第6巻第7話)。その流れと並行して、チノの行動がきっかけで周囲を巻き込むエピソードが増えており(第5巻第8話や第7巻第1話)、物語の視点がチノ中心に変わりつつあることがうかがえます。加えて、これまで単行本表紙で皆勤賞だったココアが第6巻でチノにセンターを譲って脇に移動したこと、そして第7巻ではココアが表紙からいなくなったことも、ごちうさの視点がココアからチノに移り変わりつつあることを反映していると考えられます。
さらにファンを驚かせたのが、ここまで全エピソードで皆勤賞だったココアが、きららMAX2018年11月号のエピソードで初めて欠席し、言わば主人公不在の回となったことでした。はぐれてしまったココアとチノ以外の面々でストーリーが進行するというイレギュラーな展開は、ココア単独が主人公の物語としてではなく、キャラクター全員の成長を描く青春群像劇だからこそ成立したわけで、その予兆はずっと前からあったのだと考えられます。

作画の修正について

次に作画の修正ですが、ガレット・デ・ロワのエピソードが巻頭カラーに来たことで、雑誌掲載時の冒頭2ページに加え、追加の3ページ(ココア「私が当たったらみんなを妹にするんだ~」のコマ以降)がカラーで描き下ろされました。カラー化に当たって背景が描き直された以外に、台詞や構成の変更はありませんでした。

それ以外のエピソードについても作画の修正はありませんでした。

各エピソードのタイトルについて

単行本恒例の各エピソードのタイトルについて見ていきます。

第6巻に引き続き、楽曲のタイトルが各エピソードタイトルのモチーフに使われているのが目を惹きます。「セカイがカフェになっちゃった!」(OVA ED)、「鏡合わせのアンビバレット」(2016年キャラソンシリーズ・リゼソロ曲)、「ときめきポポロン」(第2期ED)、「ココロそばにいるよ」(アルバムchimame march)、「わーいわーいトライ!」(2018年キャラソンシリーズ・共通曲)のように、発表年代によらず幅広く選ばれています。驚くべきは楽曲タイトルとエピソードの親和性の高さで、リゼがイメチェンする回はまさに”アンビバレット”ですし、チマメ隊が動画撮影するシーンは”ポポロンダンス”そのものでした。順番的には楽曲の発表のほうが先ですから、恐らくはKoi先生が楽曲に着想を得てエピソードタイトルにアレンジしたのだと思うのですが、あまりのシンクロ率の高さに、もはや原作エピソードのために楽曲が存在していたのではないかと錯覚するくらいです。第7巻のあとがきでは、キャラソンシリーズがごちうさの世界を広げる1つの要素になっていると触れられており、原作と楽曲が持ちつ持たれつの関係でごちうさの物語を支えていることがうかがえ、今後もこの傾向は続くことでしょう。

第6話「Eを探し続ける日常」は言わずもがな第4巻第9話「Eを探す日常」への応答になっており、同じお嬢様高校を舞台にしつつ、今回はミス・エメラルドではなくリゼを探す物語に変わっています。半年前にミス・エメラルド探しで対決した吹き矢部部長ことユラ先輩が再登場しており、シャロはリゼとともに部活動行脚した当時を思い返しながら、今ではすっかりお嬢様高校に馴染んだことを実感するという、リゼシャロ関係の進展を描いた象徴的なエピソードとなっています。
ちなみに、本エピソードはここまでずっと皆勤賞だったチノが、初めて欠席したエピソードだったことに触れておく必要があります。前述の通り、ごちうさはココア単独が主人公の物語としてではなく、キャラクター全員の成長を描く青春群像劇としての性格が強いため、高校生組の友情を描いた本エピソードでチノが登場しなかったのも何ら不思議ではありません。ごちうさの構成で見事だと思うのは、キャラクター全員が集まってワイワイしているエピソードと、キャラクター個人を掘り下げたエピソードをうまく使い分けている点で、特に第6巻の後半では前者の描写が目立ったため、初期のエピソードよりも派手な印象を受けた方もいるのではないかと思います。第7巻では、再び個人を掘り下げるエピソードが中心に構成されたことで(例えば第2話はリゼ回、第3話はマヤ回、第5話はメグ回、そして第6話はシャロ回)、いつものごちうさらしさが戻ってきたかなと感じています。

Koi先生が第10話のチマメ隊の合格発表を「私たちの通過点」と表現したことは、ごちうさの特異性を表す象徴的な出来事だと思います。「あずまんが大王」、「らき☆すた」、「けいおん!」、「あいうら」といった多くの萌え四コマが物語の1つのゴールを「卒業」や「進学」に据える中で*1、ごちうさは受験と卒業を単なる通過点と言い切ったのですから、従来の萌え四コマに比べて思い切った作品だと言えます。以前の記事でも触れましたが、ごちうさのメインの舞台は学校ではなく喫茶店であり、作品の結末と卒業は切り離されて扱われるべきです。第10話のタイトルからは、そうしたKoi先生の意図が伝わってくるような気がします。

第11話はタイトルそのものがエピソードのオチになっているのが秀逸です。本編だけを読むと、ブロカントで儲けたリゼが一番貢献したように思いますが、実は缶拾いで一発当てたメグだったというのが、本編で描かれていない後日談の想像を掻き立ててくれます。このようにタイトルを物語のオチに使う手法は、第5巻第2話「チノ、一度戻ってきたとき無視したじゃろ!…え?戻って来てない?え?」や同第9話「首振りうさぎってコレクターの間で高値で取引されていたみたいです…」でも見られ、ごちうさが単なる萌え漫画としてでなく、ギャグ漫画としての側面もしっかりと確立していることを再確認できます。

キャラクター紹介のページの鍵について

ごちうさ単行本のカラーページにはキャラクター紹介の見開きイラストが入るのが定番で、今回は「鍵」がテーマになっています。各キャラクターともに第7巻のエピソードに縁のある衣装を身に纏っているのが目を惹きますが、さらに注目したいのは、ココアとチノが鍵を手にしていて、それ以外のキャラクターは鍵穴をモチーフにしたアクセサリーを身につけているという点です。

鍵の絵の解釈の1つとして、現在の人間関係や物語を切り開いたキャラクターが鍵を持っているという考え方があります。この場合、ココアが鍵を持っているのはしっくり来るのですが、ポイントはチノも一緒に鍵を持っている点です。1年目は社交的で活発なココアに対し消極的な姿勢を見せることもあったチノが、第7巻、すなわち2年目の暮れでは皆を卒業旅行に誘うという、彼女としては大変勇気のいる決断をしたことで、物語が大きく動き始めたのは言うまでもありません。そんなチノが第7巻のカラーページでココアと共に鍵を持っているのは、ある意味当然の演出でしょう。

ここまでのまとめ:第7巻の修正から見える第8巻以降の展開

第7巻における単行本の修正点はエピソード順の並び替え(ガレット・デ・ロワ回を先頭に持ってきた)のみで、第6巻ほどの大きな差分はありませんでした。

しかし、このエピソード順の並び替えは、第7巻のテーマがチマメ隊の受験と成長、特にチノの成長に重きを置いたものであることを伝え、今後のごちうさの物語がチノ視点で進んでいくことを示唆しているという点で重要な役割を果たしていると考えられます。その理由を説明したいと思います。

チノが皆を卒業旅行に誘うことを決意するガレット・デ・ロワ回の初出はきららMAX2017年12月号で、2017年10月19日発売です。折しもOVAの劇場公開を控えた時期での発表でした。そのOVAでは第5巻第5話のエピソードがKoi先生監修の元で一部改変され、ココアが実家に帰省している間に、チノが皆を花火大会に誘うという物語になっていました。つまり、

  • 原作:チノが初めて皆を外のセカイへ誘うエピソード(ガレット・デ・ロワ回、すなわち「セカイがカフェになっちゃうの?」)
  • OVA:チノが初めて皆を積極的に遊びに誘うエピソード(花火大会のパート。クライマックスを飾るのは「セカイがカフェになっちゃった!」)

という、チノの成長がうかがえるエピソードが原作とOVAで同時に進行していたということになります。このタイミングの一致は偶然ではなく、Koi先生のディレクションではないかと考えています。そして、第7巻の巻頭にガレット・デ・ロワ回を持ってきたのもこの演出を高める一環として行われ、チノが新しいセカイを切り開く新章の幕開けをファンに印象づけたかったのではないかと想像しています(前述のチノが鍵を持っている演出も同様です)。

第7巻のあとがきで予告されているように、きららMAXの最新エピソードでは、ココア達が拠点を新たに新しい人や出来事に触れている様子が描かれています。既に新キャラも複数登場しており、今後のエピソードに関わってくる重要なファクターだと推測しています。
以下は根拠のない私の想像です。Koi先生のことですからきっと私の予想を上回る素敵な展開を見せてくれるはずです。

  • 列車の中で出会った双子のお嬢様ですが、「百の橋と輝きの都」滞在中にココア、チノ達と親しくなるはずです。そのきっかけは、都に出稼ぎに来ているシャロの両親や、大学教授のココアの父親が作るかもしれません。そして新学期のエピソードでココア、チノの高校にやって来て再会。(マヤメグのお嬢様高校に来るかもしれません)。チノは双子たちと新しい友達になり、街を紹介していく中で木組みの街のことがより一層好きになる。まるでココアとチノの母親同士が素敵な高校時代を過ごしたように、娘達も幸せな高校生活を繰り返すという、ごちうさならではの繰り返しの構造が見られるのではないかと予想しています。
  • ロイヤル・キャッツと従業員の老婆2人については、青山さんが地元の高校or大学の受験に失敗した時に(第7巻第9話で青山さんがほのめかしていた)、地元を離れて下宿していたのがロイヤル・キャッツだったのではないでしょうか。そのため2人の老婆と面識があり、ココア達が安く泊まれるように配慮してもらえた(第7巻第11話)のかなあと想像しています。もしかすると都滞在中に青山さんゆかりの人物が新しく登場するかもしれません。また、青山さんが都に滞在していた頃の経験が今の小説に活きていることが明かされるかもしれません。

ごちうさで最も深い謎:「ご注文はうさぎですか?」とはどういう意味なのか?

最後にごちうさ始まって以来の謎について触れて締めくくりたいと思います。

あらゆる不思議と奇跡の調和の上で成り立つ「ご注文はうさぎですか?」という作品の最も深い謎は、その作品タイトル自身にあります。タイトルが問いかける「ご注文はうさぎですか?」には、恐らく作品の核心を突くメッセージが込められているのだと思いますが、現時点ではまだもやっとしたままです。

この謎多き「ご注文はうさぎですか?」のフレーズを連想させるシーンは、これまで2度登場しています。

  • 1度目は第1巻第1話のココアが初めてラビットハウスを訪れたシーンで、初対面のチノから「ご注文は」と聞かれ、「じゃあそのうさぎさん」と答えて、ティッピーをもふもふしていました。1話目から作品タイトルを回収する、粋な演出だと思います。
  • 2度目は第2巻第12話後の、ココアが幼少時代にチノ祖父と出会っていたことが明かされるシーンです。ここはごちうさの回想シーンの中でもかなり重要なシーンで、作品の核心を推測するのに重要なヒントとして、多くのごちうさファンが注目しています。幼少期のココアが「おじいちゃんのごちゅうもんはうさぎさんになることだね」と言いながらチノ祖父にかけたおまじないと、後にチノ祖父の魂がティッピーに憑依したという事実の因果関係は、現時点ではあまり触れられていないものの、決して無縁ではないはずです。

第7巻を含め、最近あまり本編中で聞かなくなった「ご注文はうさぎですか?」というフレーズ。とは言え、所々でうさぎやそのモチーフが登場する傾向は物語初期の頃から変わりません。ココアがラビットハウスに入ろうと思ったきっかけや、ココアと千夜が出会うきっかけを作ったうさぎが、ごちうさにおける重要なファクターであることも間違いありません。今後の展開にもうさぎは本格的に絡んでくるものと見られ、ココアの幼少期や香風家に隠された謎、そして作品タイトルの謎までもが、うさぎによって解明されてしまうのではないかと推測しています。

ちなみにティッピーといえば、2年目夏の山合宿を思い出せば分かるように、チノが木組みの街の外へ出るエピソードでは留守番になります。もちろん今回の卒業旅行にも同行していません。もしかすると木組みの街から出られない呪いのようなものがあるのか、という推測もできるのですが、そのあたりの謎は作品タイトルも含め、物語の結末が迫った時にKoi先生がサプライズと共に解き明かしてくれるのだと思います。

これからもどんどん広がるごちうさの新しい世界、楽しみに応援し続けていきたいと思います。


*1 「けいおん!」については、唯達の高校卒業で一旦完結した後に、大学編と高校編に分かれて復活しており、どちらも学祭ライブで結末を迎えましたので、厳密には物語のゴールは卒業ではないのですが、卒業が作品の大きな区切りになったことは間違いありません。「らき☆すた」も「けいおん!」と同様にアニメ化で人気に火がついて、こなた達が高校を卒業した後も原作が延長戦に突入した稀有なパターンですが、やはり卒業は大きな区切りでした。

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